人物埴輪研究最前線

2007年2月17.18日に開催されたシンポジウム「埴輪の構造と機能」(東北・関東前方後円墳研究会)の要旨をみると人物埴輪について注目すべき発表があった。専門的内容であるが結論は分かりやすい。最新情報として拙い要約を試みた。
・トヨノアカリから葬列の形象化へ(森田悌氏の新説)
要旨【古墳の多くは被葬氏者が生前に造ったのであり、埴輪の樹立も同様と考えられる。古墳時代前・中期の死者の世界は目に見えない「幽世」である。埴輪人物群像は生者の世界をあらわしている。すなわち、食膳奉仕の女子が供献している様子をかたどっている人物群は人間社会の理想的状況である「神宴」トヨノアカリをあらわしている。そして、6世紀に横穴式石室が採用されるとイザナギがイサナミの腐乱した死体を見たのと同様の経験をすことがあり、葬送、また死者への慰撫観念が発達し、野辺送りの葬列を形象化したり音楽を奏でる人物像を並べることが行なわれるようになった】「埴輪祭式と顕事・幽事」より
・被葬者に近侍的奉仕をする人々を造形(塚田良道氏)
要旨【埴輪研究には宗教的事象を理解するための論理の構築が必要であり、それがない今までの後藤守一らの特徴的な所作や服装から名づけた埴輪の名称は仮説の混乱をもたらした。構造主義の「共時構造」と森本六爾らの「通時的構造」の考え方に学ぶべきである。人物埴輪の基本的構造は坐像を中心に食膳奉仕、近侍・警護、出遊の御者、墓域の警護であり、「特定の人物(古墳に埋葬された人物)に服属して奉仕する近侍集団をそれぞれの階層や職掌を示す造形で製作し、その相対的な場の関係を古墳という空間上に反映させた姿」であり、「土製供物や器財埴輪の意味を人間の行為として形象化」するという宗教思想を表すために新たに成立した形象埴輪である。】「人物埴輪の構造と意味」より

             (埴輪が並んでいた仙台市太白区大野田古墳群の円墳)
・壺の中の「他界の王宮」(辰巳和弘氏)
このシンポでは先に紹介した辰巳和弘氏も「埴輪の構造─『他界の王宮』創造」と題して、総論的に整理している。【「祭祀」とは「繰り返される祭儀行為」であり、そのような定義からすれば「古墳祭祀」は存在しない。墳丘頂に多数の形象埴輪、一段目のテラスに壺形埴輪をめぐらす古墳は「壺」に象徴される世界である。壺形をなす墳丘(「前方後円」)はその極まりに顕現する。そして埴輪には墳丘への進入を拒み、結界しようとする強い意志が反映しており、内なる世界を外なる世界から守護している(盾形埴輪)。墳丘は周濠と壺形埴輪によって二重に結界され、被葬者の世界と「この世」を区別する仕掛けである。墳丘は他界空間であり、そこに並ぶ多数の家形埴輪が配置された情景に「他界の王宮」が観念された。その具体的様相には、埴輪形木製品など失われた造形・見えざる造形に留意しなくてはならない。】