埼玉県の人物・動物ハニワたちと芸術家のコラボ

地底の森ミュージアムで開館10周年特別企画「埴輪の美と現代の芸術」がはじまった。教科書では見るものの実物を観る機会のほとんどない人物(いわゆる巫女・武人・農夫等)・家・動物(馬・イノシシ・鹿・鶏・水鳥)などの埴輪たち(5世紀後半〜6世紀)がやって来た。しかも今回は埴輪に魅せられた芸術家達─川端康成蒐集「乙女頭部」や土門拳の写真「農夫」(にっこりが素敵)、鳥海青児の絵、イサム・ノグチの彫刻「かぶと」などがある。
・「恐るべし川端康成コレクション」の「埴輪頭部」  
http://www.shinchosha.co.jp/geishin/200702/tok.html
「この可憐な丸顔の埴輪について、川端は「日本の女の根源、本来を感じる。ありがたい」と素朴に賞賛する一方で「目は切り抜かれて、奥に深い暗があるから、可愛さは甘さにとどまらない」とも述べている《埴輪 乙女頭部》古墳時代(5〜6世紀)素焼き 高17cm 奈良県天理市出土」(「週刊新潮」HPより)
イサム・ノグチ「世界とつながる彫刻」展(高松市美術館)
 http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/5198.html
(巫女)
埴輪は古代人の姿を知ることができる人々に親しまれている考古学資料なのだが、その性格については謎だらけの遺物である。首長地位継承儀礼説(水野正好氏)、葬送儀礼説、被葬者の「ハレ」の場面再現説、来世での生活表現説、殯(もがり:貴人の本葬をする前に、棺に遺体を納めて仮に祭ること)の場説などたくさんの説がある。最近では「殯宮を中心に喪葬を映した」のが人物・動物埴輪群が「しだいに墳丘の装飾と化していく」との理解もみられる(高橋克壽氏)。巫女がもっとも普遍的に出土することはその根拠を構成している。
感覚的には切り取りにより表現された彼らの眼は漆黒の闇である冥界を暗示しているようにもみえる

歴史発掘 (9) 埴輪の世紀

歴史発掘 (9) 埴輪の世紀

また、本展示埴輪の多くが出土した埼玉県の古墳を中心としたフィールドで研究している若松良一氏は2003年の国立歴史博物館の展示「はにわ─形と心」関連フォーラム「王の墓と奉仕する人びと」において【埴輪には古代の葬制の全部が統一的に詰め込まれており、埴輪は殯の場において祀りを完了して、死者のための最高の儀式が終わったことを死者の霊魂に見せるための「引導渡し」の装置である】という興味深い説を紹介している。・「はにわ─形と心」展(国立歴史博物館HPより)
 http://www.rekihaku.ac.jp/kikaku/index73/index.html 

展示された埼玉県の埴輪には、帽子をかぶって左肩にクワ?をかつぎ腰に小刀?鎌?をつけた「農夫」(埼玉県指定文化財)、行田市埼玉古墳群の銘の入った鉄剣で有名な稲荷山古墳(5世紀後半 全長120mの前方後円墳 雄略天皇の親衛隊長の墓かとされる)の「武人頭部」「家」・瓦塚古墳(6世紀前半 全長73mの前方後円墳)の「家」、深谷市舟山古墳の「琴を弾く男」など著名な埴輪が展示されている。
人物埴輪について若松氏によれば、美豆良(みずら)を結っている「琴を弾く男」について、琴を弾く埴輪は皆、男性で神おろしや占いをして神との交信をしているのではないかとされ、顔を赤く塗った埴輪については「葬儀の場に臨む時の辟邪(へきじゃ)の化粧の習俗」を示しているのは興味深い。古代天皇家の葬制では一年にも渡る殯(もがり)があり、「辟邪」という魔物にとりつかれないための祭祀を行なったのだという。ただし、この説に対しては埴輪が死者に見せるものならば地下に入れれば良いとして「埴輪は被葬者の生前の情景」という杉山晋作氏らの反論がある。
新古代学の視点―「かたち」から考える日本の「こころ」

新古代学の視点―「かたち」から考える日本の「こころ」

しかし、辰巳和弘氏は被葬者を顕彰するなら、もっと多種類の埴輪があるはずであり、古墳の壺形や円筒の埴輪を巡らせた中に家形埴輪(+器財埴輪)を置くという基本パターンから杉山氏説を否定し、家形埴輪は「被葬者が眠る家の形象が古墳に存在する」とします。論争は続いていくようだ(『王の墓と奉仕する人びと』2004)。なお、辰巳氏は『新古代学の視点』において『神仙伝』の「壺中の天」から、「前方後円墳」という名称は適切ではなく、「壺形墳」とすべきであり、5世紀の琴を弾く「正装した首長像」の出現ととりまく家形埴輪の情景はは「あの世の居館」であり「他界の王宮とする。」
なお、宮城県の古墳から出土する埴輪の多くは、いわゆる「円筒埴輪」であり、富沢遺跡博物館近くの大野田古墳群が東北地方では代表的存在です(その中の春日社古墳では馬の頭部とみられる貴重な動物埴輪が出土している)。会場にはその円筒・朝顔形埴輪も展示されている。
・埼玉古墳群(「埼玉の古代史跡を巡る」DON PANCHOさんのHPより)
http://bell.jp/pancho/travel/saitama/sakitama%20kofungun.htm
・大野田古墳群現地説明会資料(仙台市教育委員会HPより)
 http://www.city.sendai.jp/kyouiku/bunkazai/oonodakofungun/index.html

個人的にすごいと思うのは杉山寿栄男コレクション(東北歴史博物館)の器財埴輪群。群馬県の古代豪族の支配権の象徴である三輪玉飾付大刀や団扇形・「きぬがさ・さしば・ゆき」などを埴輪にしたもの。聖域の威儀を高め、守護するという役割があったとされる(後、墳丘装飾化)(高橋克壽氏)。
もちろん、看板になった髷(まげ)を結った巫女とされる女性の埴輪もいい。また、馬・イノシシ・鶏・鹿たちがなぜか可愛い。そして、どのようにして土門拳は埴輪の表情をひきだしたのか。さまざまな見方・感慨を引き出してくれる特別企画。
・面白い「きぬがさ・さしば・ゆき・たて」(「埴輪の種類」芝山はにわ博物館HPより)
 http://www.haniwakan.com/tenji/1-3.html
会場は写真撮影禁止なので、詳細な紹介はできません。ぜひ、会場にお出かけください。
金曜日はハニワが動き出す?!「ナイトミュージアム」だそうで、7時まで観覧できるようです(入館PM6.30まで)。
◎10周年特別企画公式HPhttp://web.midc.jp/bunka/event/shousai.php?id=1377
地底の森ミュージアム(仙台市富沢遺跡保存館)HPhttp://www.city.sendai.jp/kyouiku/chiteinomori/
ナイトミュージアムhttp://movies.foxjapan.com/nightmuseum/
◎さらに詳しく知りたい方へ
川端康成収蔵の埴輪
川端康成と東山魁夷―響きあう美の世界

川端康成と東山魁夷―響きあう美の世界

イサム・ノグチ
「考古学」という作品さへある(「イサム・ノグチ 世界とつながる彫刻展」ジャパンデザインネットHPより)
http://www.japandesign.ne.jp/HTM/JDNREPORT/060531/isamu/3.html
ウィキペディアhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%82%B0%E3%83%81
静岡県立美術館HPhttp://www.spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/collection/item/S_23_851_J.html